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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)11940号 判決 1966年4月25日

原告 八木清

被告 株式会社大和銀行

主文

一、訴外川端保太郎が、別紙第一物件目録記載第一の宅地および別紙第二物件目録記載の山林につき、被告との間になした別紙第一、第二登記事項目録記載の各根抵当権設定契約を取り消す。

二、被告は原告に対し、前項の不動産につきなされた別紙第一、第二登記事項目録記載の各根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

三、原告のその余の請求を棄却する

四、訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

一、<以上省略>原告は代理人の水越冬夫を介し、訴外日電工業代表取締役川端保太郎の代理人である半田某(訴外日電工業経理課長)に対し、昭和三九年八月一三日金三五〇万円を、返済期日を同年一一月一八日と定めて貸し付け、ついで同年八月一五日金二五〇万円を、返済期日を同年一一月二五日と定めて貸し付け、さらに同年八月二九日金九五〇万円を、返済期日につき、内金三〇〇万円は同年一二月一七日、内金三〇〇万円は昭和四〇年一月五日、内金三五〇万円は同月二五日と定めて貸し付け、みぎ貸付の都度、川端保太郎、川端正三両名の代理人の資格を兼ねた前記半田は訴外日電工業の前記債務につき原告代理人水越冬夫に対して連帯保証をしたことが肯認でき<以下省略>。

二、<以上省略>つぎの事実が肯認でき、この認定を左右するに足りる証拠は見出しえない。すなわち

訴外日電工業の代表取締役川端保太郎は、昭和三九年三月頃から、経理部長の竹林福次郎を介しまたは自ら直接、第一生命保険相互会社と交渉を重ねた結果、同会社から、被告銀行の支払保証を条件に訴外日電工業に対して設備資金として金五、〇〇〇万円の融資をする旨の内諾を受けた。そこで川端保太郎は昭和三九年六月頃、訴外日電工業の取引銀行である被告銀行の品川支店長吉村順吉に対し、みぎの事実を折ち明けて前記の支払保証のことを懇請した。吉村はこれに応じたが、その前提として担保権の設定されていない不動産を担保として差入れることを要求した。そこで保太郎は、知人の飯野宗内の諒解のもとに、同人所有の宇都宮市兵庫塚町字下原の山林五筆を担保に差入れることとし前記竹林経理部長を通じ、みぎ土地の登記済権利証その他登記手続に必要な書類一式を、被告銀行品川支店の貸付主任鈴木栄二に交付した。ところが飯野は昭和三九年八月下旬頃保太郎に対し、分割登記をするため、と称してみぎ書類の返還を求めてきたので、保太郎は前記鈴木に事情を話してその返還を受け、これを飯野に返戻した。その後飯野は当初の意思をひるがえして物上保証を拒否するにいたった。地方前記書類を保太郎に返還した被告銀行品川支店としては、前記土地に代わるべき担保物件を確保する必要があると考え、かねて保太郎から預かり保管中の根抵当権設定契約証書二通(乙第二、第三号証。但し当時は、いずれも作成年月日および抵当権の順位の記載がなく、さらに乙第二号証については前文三行目前半の二行にわたる記載もなかつた。)および登記簿謄本に表示された本件土地および本件建物ならびに日興産業株式会社所有の山林九筆に対し、根抵当権の設定を受けることとし、その旨を保太郎に伝えるとともに、登記手続のための正三の印鑑証明書を提出するよう要求した。さようなわけで昭和三九年八月下旬頃被告銀行は、品川支店長吉村順吉を介して訴外日電工業に対し、第一生命保険相互会社から金五、〇〇〇万円の融資を受けるについて、支払保証をすることを約するとともに、この支払保証の担保として、すなわち訴外日電工業の運帯保証人として第一生命保険相互会社に対し支払うことによって生ずることのある将来の求償債権を担保するため、保太郎から同人所有の本件土地につき、また正三から同人所有の本件建物につき、さらに日興産業株式会社から山林九筆につき、支払保証極度額を金五、〇〇〇万円とする根抵当権の設定を受けた。かくして第一生命保険相互会社は昭和三九年九月五日、被告銀行の運帯保証のもとに訴外日電工業に対し金五、〇〇〇万円を貸し付けた。しこうして前記根抵当権設定契約証書二通の作成日付が昭和三九年九月三〇日となっているのは、前記のように貸付主任の鈴木栄二が日付の記載のないまま受け取り、被告銀行品川支店に保管されていたところ、同年一〇月頃決算書類をその本店に送る関係上、鈴木貸付主任において決算期の日付を記入したことによるものである。また昭和三九年九月は恰も決算月に該当し被告銀行品川支店の行員一般も多忙であり、前記抵当権設定登記手続も遅延していたところ、同年一〇月二四日頃訴外日電工業が手形の資金繰りに困難を生じた事態を知った同支店の副長内海悟の指示にもとづき急遽同月二六日根抵当権設定登記手続が経由された。

三、<以上省略>訴外日電工業は、川端保太郎がその経営を主宰する同族会社である関係上、昭和三八年七月三〇日被告銀行から金八、〇〇〇万円の融資を受け、また前掲のように原告から合計金一、五五〇万円の融資を受ける際、いずれも保太郎は個人として運帯保証をしているのであるが、そのように保太郎の個人保証のもとに、訴外日電工業が銀行その他金融業者から借り受けた債務の総額は、本件根抵当権設定当時、約金九億円に達していたことが認められる。

他方川端保太郎の当時の資産を検討すると<省略>、同人は前掲のように本件土地を所有するほか、東京都品川区東戸越に鉄筋コンクリート造陸屋根三階建屋階付共同住宅、宇都宮市に土地二筆(約三、〇〇〇坪)、静岡市小鹿に土地一六〇坪余、大宮市外大和田に山林一筆(一五〇坪ないし一六〇坪位)を各所有するが、以上のほかは資産としてみるべきものなく、その評価額は、保太郎の前記債務額には遠く及ばないものであるところ、同人はもとより、みぎのように無資力の状態にあることを知りながら、あえて本件土地に対し本件根抵当権を設定したものにほかならないことが認められ、以上の認定を左右するに足りる証拠は見出しえない。

四、ところで、受益者である被告銀行は詐害行為である本件根抵当権の設定が行われた当時、川端保太郎の債権者を害すべき事実を知らなかった旨、を被告は主張するので考えてみると、被告銀行が善意の受益者であるという点については、これを肯認するに足りる証拠は見出しえない。かえって<省略>被告銀行は訴外日電工業に融資をする場合は、例外なくその実権者である川端保太郎個人の連帯保証のもとに、これを行なってきたものであるが、被告銀行品川支店長吉村順吉同支店副長内海悟らはいずれも、訴外日電工業は三井銀行、三菱銀行、三和銀行、協和銀行、東海銀行等からも融資を受けているが、これらの場合も被告銀行の場合と同様、川端保太郎が個人の資格において連帯保証をしており、しかも以上の融資額は、本件根抵当権設定当時莫大な額に達するものと承知していたことが推認され、さらに前掲のように吉村支店長その他同支店の幹部が川端保太郎との間に、支払保証につき交渉を重ねた際、一番抵当権の設定が可能な不動産を差入れることを要求し、一旦は飯野宗内所有不動産の登記済権利証等を入手したが、その後同人の拒否にあったため、やむをえず保太郎所有の本件土地等につき本件根抵当権の設定を受けたというような経緯があり、またかねて同人から預かっていた本件土地の登記簿謄本には、宅地については株式会社国民相互銀行のため債権元本極度額を金七〇〇万円とする根抵当権設定登記の記載があり、また山林については品川信用組合のため債権額を金一、〇〇〇万円とする抵当権、債権元本極度額を金一、〇〇〇万円とする根抵当権、債務元本極度額を金八〇〇万円とする根抵当権の各設定登記の記載があるというわけで、保太郎が本件土地のほかに静岡県および大宮市にそれぞれ若干の土地を、また中庭に建物を、各所有するものと承知していても、以上の評価格は、前記各銀行の融資残額の比ではなく、しよせん無資力は免れないものと考えていたものと推認するのが相当である。

さようなわけで、被告は、債務者川端保太郎の本件根抵当権の設定について、受益者である被告銀行の善意につき立証を果さなかったものといわなければならない。

五、つぎに<省略>、本件建物に対する本件根抵当権設定当時、川端正三は前掲のように、原告に対し金一、五五〇万円の連帯保証債務を有するほか、昭和三八年一一月頃引受新株(訴外日電工業発行)の株金払金資金として、被告銀行から金一五〇万円を、三菱銀行から金二〇〇万円を借り受けていたこと、他方正三の資産としては、本件建物以外にはみるべきものがないこと、したがって本件建物に対し被告銀行のために本件根抵当権を設定するときは、同人は無質力となり、前記の債権者を害することとなることは明白であり、同人自身はもとよりさようなことは承知の上であえて前記のような所為に出たものであることが認められ、以上の認定に抵触する証拠は存在しない

六、被告は、みぎに認定した詐害行為につき、受益者としての被告銀行の善意を主張するので、この点につき判断をすすめる。証人吉村順吉は、同人(被告銀行品川支店長)は、昭和三九年八、九月当時、川端正三が前記のように被告銀行から金一五〇万円、三菱銀行から金二〇〇万円の各融資を受けているが、いずれもその見返りとして訴外日電工業発行の株式を預けており、また本件建物を所有することは知っていたが、以上のほかに債務や資産があるのかどうかは全く知らなかった旨証言し、また証人内海悟も同様の証言をしており、以上の各証言によれば、川端正三がほかに負担する唯一の債務すなわち原告に対する金一、五五〇万円の連帯保証債務の存在については被告銀行品川支店長、その他同支店の幹部としては全く認識を欠いていたものと認められる。また川端正三が被告銀行および三菱銀行に担保として差入れた訴外日電工業の株券は、昭和三九年八、九月当時、いずれも融資額を上廻る価格を有していたことは<省略>明らかである。さようなわけで、川端正三が本件建物に対し根抵当権を設定する当時、被告銀行品川支店長らはさような行為によって正三が無資力となるというようなことは認識していなかったものというべきである。この点に関する被告の前記抗弁は理由がある。

七、以上のようなわけで、権務者川端保太郎が本件土地につきなした根抵当権設定行為は、債権者である原告の取り消しうるところであり、原告の取消権行使の結果、被告は本件土地につきなされた根抵当権設定登記を抹消すべき義務を負うものといわなければならないが、債務者川端正三が本件建物につきなした根抵当権設定行為については、原告の債権者取消権は成立しないこととなる。

したがって原告の本件請求のうち、本件土地に関する部分はすべて正当として認容すべきも、本件建物に関する部分は失当として棄却すべきである。よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

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